『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』を読んで
木下斉著『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』を読んだ。
いやあぁぁ…これほど面白い本はそうそうない。
大学での私の講義より、よっぽど学生のためになるだろうなあ。と、素直に思った。
地域づくりの立役者が書いた本はたまに私も読むけれど、こんなに実用的で、リアルで、教訓めいた本は読んだことがない。
それでいて、小説仕立てになっていて、「あと○ページか~」とか思うこともなく、夢中で読めてしまった面白さ。
ヘタなドラマや映画より、よっぽどドロドロしていて、ヘタなドキュメンタリーより、よほどリアリティがある。
それでいてコラムや122の注釈には、筆者の解説や知識も盛り込まれているので、ただ「面白い」で終わることもない濃密さ。
まさに、楽しみながら学べる地域づくりの教科書(教訓書?)という感じ。
主人公も、私の大学によくいるタイプの学生で、彼らに読ませたら、きっと私よりのめり込むかもしれない。
役人の描写は分かりやすさのためか、過剰&極端(実際は、もっと間接的に、含みをもたせた言い方の人が多い印象)ではあるものの、その本性&真意を的確に掴んでいて、「あるある」感がすごい。
それだけに、私が地域経済の研究でやっていることって何なんだろう…と考えさせられる話だった。
付箋だらけになったこの本だけど、私なりの気づきは…
①自分の身の丈にあった規模感で、小さく始める。
そしてトライ&エラーを積み重ね、「やりながら考える」「軌道修正」するしかないんだなと。
何事もそうだけど、最初から上手くいかせようとして、準備のし過ぎでアクションが遅れるのは時間のムダということだね。
②「人のカネで事業をする」という補助金は、地域をダメにする。
補助金をもらって何かしようとすると、遣い切ろうとする精神が働き、意味不明な予算消化イベントが生まれたり、採算度外視のハコモノができたりする。
自分たちで収益を出す能力のない事業者に補助金を出したところで、また赤字になるのは目に見えてる。
さらに、補助金目的の名ばかりコンサルタントや詐欺師が横行しているという始末。
地方財政論とかでは、地方の財源や裁量のなさなどが問題視されている。
「他人のカネ」である交付税や補助金は、地方の「稼ぐ力」を削ぎ、かえって迷惑でしかないのだね。
地方だからみたいな「甘え」が脳みそを浸透させないうちに、経営感覚を身につけ、採算をとって継続させるという「自立した」意識が求められていると感じた。
③批判は称賛。
何か新しいことをするということは、これまでの古い常識を覆すということでもある。
地域づくりでは、妬み嫉み、脅迫、既得権益者の妨害が伴うというのはよく聞く。
本書でも、最初は「上手くいきっこない」と言われ、成功すると「あいつらばかり」と僻まれ、
失敗すれば「ほれ見たことか」と後ろ指をさされるといった話が全体を通してあった。
でも、それだけ注目されていないと、そんなことにもならないわけで。
誰も批判しない事業っていうのは、誰にも刺さらない、特に必要のないものだったりする。
しかも、全員が賛成するような事業は、衰退地域の常識に矛盾しないわけだから、かえって衰退を加速させる可能性もある。
逆に、批判されるくらいがちょうどいい。
どうせ何をやったって文句言う人はいるんだから。
ということで、学術的には見えない世界が描かれ、実践者のための実用書だった本書。
大学教員はこういうの教えられない。
でも、次世代の地域経済を担う学生たちにはぜひとも読んでほしいので、授業で紹介しよう。