研究ノート

広島大学の地域貢献研究

広島大学で行われていた「地域貢献研究プロジェクト」。

普通は地域貢献研究って言っても、大学教員が各々の問題意識で研究したり、
地域の機関から依頼を受けて研究したりするものだけど、
ここでは地域から研究テーマを公募するそう。

「中国四国地域に在住在勤」の人であれば、個人でも団体でも、「地域の課題」を応募できる。

課題の提案者が何を求めているかについてのアンケートでは、
「考え方や理論の開発」が42.2%と最も高く、
「基礎データや資料の収集」が31.1%、
「ノウハウの提示」が22.2%ということらしい。

やっぱりね、大学はノウハウを教えるところじゃないのよ。
(受験生や大学生自身も、大学にノウハウを求めているんじゃないかと思うことが多々あり、モヤモヤする今日このごろ)

地域づくりとか地域おこしとかについて、
大学教員が何かアクションを起こした方がいいのかなとか思っていたけれど、
そういうのが得意だったら、そもそも研究者にはなっていないわけで。

地域にいる「実践が得意なプレーヤー」が、「実践>理論」の状況に悩んだとき、
考え方をレクチャーして、実践の高度化を促すことができたら、それはもう立派な貢献なんだと分かった。

とはいえ、課題もあったようだ。

たとえば、「研究者目線で取り組むあまり、
課題提案者のオーダーにかなう研究テーマ・アプローチからかけ離れたものになってしまう」という問題。

課題提案者としては、目の前の緊急事態に実効性のある対策を求めているケースもある。

これはねえ…う~ん、研究者が苦手とするジャンルだわ。

研究者としては、やっぱり、俯瞰的に、長期的に、体系的に、全体像を把握してから、個別の課題に向き合いたい心理が働く…
というより、そうでないと「研究といえるのか」みたいなところがあるからね。

「研究としての価値」と「課題解決としての価値」が両立しないケースも多いのかも。

他にも、
「研究者の独断でプロジェクトを進めるのではなく、何をどこまでやったら終わりで、そのための研究計画を提案者側にも共有してほしい」
「提案者の意向よりも、研究者の関心が優先されている」
「研究者の都合で、学生の卒論のための研究に見受けられる」という不満があったようだ。

結局は、「コミュニケーションの不具合」ってことか。

まあね、提案者が「課題を投げて終わり」じゃ、軌道修正もままならないし、研究者の思いも伝わらないよね。

ところが、アンケート結果によると、提案者と研究者のミーティング頻度と不満の有無は、あまり関連性が見られなかったらしい。

大学の先生に対等な立場でツッコミを入れるっていうのは、
学外の人にとってはハードルが高い、っていうのが一因みたい。

ということで、両者のすり合わせを行ったり、仲介してくれる、
第三者としてのコーディネーターを入れる、という案が出てくる。

ただ、これも、コーディネーターとして機能するような人材の確保という問題がある。

この企画そのものの認知度も芳しくないようで、どうやって地元の人に知ってもらうかという問題もある。

(私の大学の場合、地元の人が犬の散歩で学内を歩いているのが日常なので、
一般の人向けの掲示板なんかがあるといいのかなと思ったり。)

あとは、「そもそも、受託研究や共同研究でいいのではないか」っていう議論もある。

この企画の財源は大学から出るもので、学外の人の要望に応える研究を、
大学側の負担でやること自体、微妙って捉える人がいるのも当然。

じゃあ、依頼者側が身銭を切って、役割分担して、っていう、
従来の受託研究や共同研究みたいなやり方の方が、まあ、分かりやすいし、
提案者の責任感も出てくるだろうし。

たしかに、うん、大学とか学生が地域貢献活動をした結果、地域が大学に依存、
というか、おんぶにだっこ、みたいなことになった例を聞いたことはある。

アンケートからも、お互いに、相手に対して責任感・義務感や意識の変革を求めていることが分かったそうな。ははは。

でも、費用負担を提案者に求めると、今度は提案そのものが難しくなる、っていうね。

大学も予算がどんどん減っているなか、何をもって「地域貢献研究」とし、何を優先すべきか、
っていう議論が決着つかない以上、「あっちを変えると、今度はこっちがダメで…」の繰り返しは必至。

…と、ここまでは、10年以上前までのお話。

現在はどうなっているのは見てみると、どうやら2011年あたりから、地域連携推進事業というものに形を変えたらしい。

一般から活動テーマを募集して、マッチングイベントをやって、大学側と団体側の共同で事業申請を行うようだ。

予算は…ホームページの情報からすると、多分、大学からの助成金かな。

たしかに、こういう手法はよくみる。時代に合っている感じもする。
収まるところに収まった感があるのかな。ただの印象論だけど。

この「地域貢献研究プロジェクト」は、20年以上前に発案されたことを考えると、当時としては新しい試みだったんだろうなぁ。

正直、総合大学だからこそできることだよねとか思っちゃう。

学部に偏りのある、というか教員が少ない大学でこれをやると…なかなかマッチングしないで終わりそうだ。

でも、ジャンルを限定して公募すればいけるかな?

《参考文献》

小池源吾・佐々木保孝・天野かおり(2006)「大学による「地域貢献研究」の構想と実践」広島大学大学院教育学研究科紀要, 第三部第55号, pp. 1-10.

Pocket
LINEで送る